前回のコラムは、ウォーキングやジョギングなど有酸素運動が認知症予防・進行抑制に役立つというお話でした。皆さま、お試しいただけましたか? 試してみて、想像以上にできなかった方、脳の老化が始まっているかもしれません。

 

「脳の老化」と聞くと、記憶力の低下や認知症などがパッと頭に浮かびます。しかし実際はそれだけではありません。「話しかけられると、歩いていても立ち止まってしまう」「話しながらメモができない」「ぶつからないと思っていたのにぶつかってしまう」なども、脳機能の低下が原因の可能性があるそうです。

 

これは脳の神経細胞をつなぐ神経線維が委縮することで、記憶・理解・距離・位置を把握する神経と実際に体を動かすための運動神経の伝達回路が弱くなってしまうことで起こることなのだとか。この症状は40代以降から徐々にあらわれることが多いといいます。確かに若い頃のように素早く、的確にこなせないことも増えてくると思うのですが、それが脳の機能低下だったとは驚きです。それではこのような脳の神経線維の委縮、伝達回路の機能低下にはどのような対策があるのでしょうか。

答えは2つのことを同時に処理する「デュアルタスク」の能力を刺激する、神経伝達回路を強化するための“ながら脳トレ”を行うこと。『日経ヘルス』の2019年6月号では、京都大学医学部の青山朋樹教授による“ながら脳トレ”の特集が組まれていました。青山教授によると、情報伝達のためには神経細胞から出る神経線維が伸びなければならず、伸びて神経細胞がしっかりと結びつくことで、機能が高まるのだそう。そして前回コラムにも書いた通り、運動により脳由来神経栄養因子「BDNF」が活性化し脳神経細胞の成長に役立つので、体を動かすことも大変重要とのことです。

 

それでは“ながら脳トレ”は具体的にどのようなことをするのかというと、複数のことを同時に行う、つまり体を動かしながら脳を働かせるトレーニングを行うそうです。例えばウォーキングでも、ただ歩くのではなく、足の置き場所やどう手を動かすかなどを考えながら行うことが大切なのだそうです。飛び石やタイルのある道なら、直感で決めた色・デザインだけを踏んで歩いたり、一つ飛ばしをしてみたり。足元に集中しすぎると危険なので安全な場所で行ってくださいね。もちろん、この通りでなくても大丈夫。5歩歩くごとに右腕・左腕・右もも・左ももと順番に軽く叩いていく、など自分の決めたルールで楽しめます。

次はイスに座った状態でステップを踏みながら、前夜の夕食を思い出したり、これまでに行った旅行先を思い出してみたり。素早く足踏みを行いながらやるのがポイントだそう。このほかにも食器洗い中にその場で足踏みしながら“ながら脳トレ”を行っても。ただ漫然と食器を洗うのではなく「次は角皿を洗おう、次はお箸、その次はコップ」など、一つひとつ考えながら、声に出すのもお勧めです。

 

このほかにも青山教授が推奨しているのが、電車でつま先立ちをすること。ダイエットエクササイズにも通じるのでぜひやってみてください。「車窓から信号が見えたら」「隣に女性が来たら」などテーマを決めてつま先立ちしてみてください。毎日の積み重ねが、神経伝達回路をしっかりとつなげてくれるそうです。

このトレーニングの実証実験では、高齢者48人を“ながら脳トレ”を行うグループと行わないグループの2つに分け、3カ月後の差を測定。すると“ながら脳トレ”群は試験前と比較して認知機能の改善がみられたほか、前頭葉の過活動も抑制されていたことが明らかとなっています。

 

 

いずれのパターンもご自身でアレンジしてOKです。慣れてしまうと効果も減少してしまうので、日々パターンを変えながら実施するのもいいでしょう。街中で数字を見つけたら、足したり引いたりと算数をしてみても。もしゲームやパズルなど頭の体操につながる趣味がある方は、足踏みやつま先立ちなど運動を加えながらやってみてください。