太古の昔から、人間と共生してきたイヌ。時には狩りのお供として、時にはソリを引き人間の足として、時には農作物を守る番犬として、人間との関係を築いてきました。すっかり便利になった現代では、イヌに何かの役割を与えるというよりも「大切な家族」の一員として暮らしているケースがほとんどです。

しかし人間より優れた嗅覚・聴覚、機動力などは今も健在。警察犬や災害救助犬、盲導犬、聴導犬、介助犬、麻薬探知犬などの“使役犬”(職業犬)として、人間の能力では到底かなわない分野で、それぞれの適性を活かして活躍するイヌもいます。またセラピードッグといって、病気の人にそっと寄り添いサポートする子も。

なお、イヌとペット界のアイドルの座を争うネコはいわゆる“ツンデレ”で気まぐれなところが最大の魅力。従順で使命感あふれるイヌと違い、厳しい訓練にはヘソを曲げてしまうでしょうから“使役猫”として活躍することはまず難しいでしょう。あるとすれば「ネコ駅長」「タレントネコ」「ネコカフェ」くらいでしょうか。彼らは一日中気持ちよく寝て、気ままに遊び、食事をねだって「人間を癒す」ことが最大のお仕事です。

さて話題はイヌに戻りますが、皆さんは「低血糖アラート犬」をご存じでしょうか。まだまだ日本では知られていない使役犬ですが、パートナーの低血糖を見分けてパートナー本人に伝え、危険が差し迫れば第三者に通報する役目を担う非常に賢いイヌたちです。

糖尿病と聞くと生活習慣病である2型糖尿病を思い浮かべがちですが、体内でインスリンを作れなくなる「1型糖尿病」もあります。この1型糖尿病の原因は特定されていないものの、生活習慣は関係なく、遺伝的・先天的なものでもない自己免疫が関係する病気だそう。すい臓でインスリンを作り出すことができないためインスリン注射が必須で、小児など成人前に発症する人が多いのも特徴です。

1型糖尿病の患者さんは、毎日何回も、その指先に針を差し、血糖状態を確認しなければなりません。調べた結果、低血糖であればすぐに対処しますが、放っておけば死につながる可能性も。また低血糖を起こせば目がかすんだり、意識レベルが低下したりするので、そもそも対処のしようがないまま倒れてしまうケースもあります。1型糖尿病の患者さんは、気の抜けない戦いを24時間・365日続けているのです。

特に怖いのが「無自覚低血糖」。起きているときももちろんですが、もし睡眠時間が7時間なら、途中で起きて計測できなければ7時間もの長時間、血糖を測ることはありません。その間に低血糖になると大変危険なのです。

そこで「低血糖アラート犬」は、その優れた嗅覚で測定前に低血糖を嗅ぎ分け、パートナー本人に知らせます。もし動けない状態であれば糖を含むジュースなどを選んで手元に運ぶことも。パートナーに意識がなければ、吠えて周囲に知らせ、それでも対応が望めない場合は、自ら電話の受話器を上げて緊急通報ボタンを押すよう訓練されています。海外では実際に「低血糖アラート犬」の活躍で、患者が助かった例がいくつも報告されています。

どうやら低血糖が起きると、呼気の中に特定の成分がまざり、息の成分が変わることでイヌが嗅ぎ分けられるそうです。残念ながら精度は100%ではなく、70%程度と言われていますので「低血糖アラート犬」がいれば万事解決するわけではありません。これにはその場の状況やイヌ自身の体調など、さまざまな要因があるのでしょう。しかしこうした心強いパートナーがいることが、患者の生活にほんの少しでも安心を与えてくれます。

 

まだ日本では普及していない「低血糖アラート犬」ですが、認定特定非営利活動法人日本IDDMネットワークと、イヌの殺処分ゼロをめざすピースワンコ・ジャパンが協力し、殺処分から生き延びたイヌを「低血糖アラート犬」に育成するプロジェクトを推進しています。

 

人間にはマネできない高い嗅覚で、1型糖尿病の患者さんの希望になる「低血糖アラート犬」。実は同様ににおいを嗅ぎ分けてがんを発見する「がん探知犬」も存在します。私たちの心を癒しながら生活をサポートし、病気や災害から命を救って、悪事を暴いてくれるワンちゃんたち。こんな素敵な友人がいる人間は、とっても幸せですよね。

 

 

日本IDDMネットワーク

低血糖アラート犬