今回は抗酸化サプリメントについてお話ししましょう。抗酸化とは、老化を抑制するためにはどうしたらいいのか、という疑問に答えるために生まれた考え方です。周りを見わたすと、年をとってもきれいな人もいれば、すぐに老けてしまうような人もいますね。「なぜこのような違いが生まれるのか」という疑問が生まれるのは当然のことです。

この疑問に答えたのが、「フリーラジカル老化説(Free Radical Theory of Aging)」です。米国のデナム・ハーマン博士によって、1954年にはじめて発表されました(※1)。この学説は、人の老化を簡単に分かりやすく説明したもので、当時はあまり受け入れられなかったのですが、80年代になってから学術的にも広く受け入れられるようになりました。ご存知の方もおられるかもしれませんが、どのような内容なのか見てみましょう。

私たちが生きていくうえで、酸素が必要なのは言うまでもありません。呼吸によって酸素を取り込んでエネルギーを得ています。しかしその過程で、取り込まれた酸素すべてが有効に使われるわけではないのです。これはあらゆる人間の活動に言えることで、例えば「今日の午前中に絶対にこの仕事を片付けてしまおう!」と決心したところで、1分1秒まで無駄のない時間の使い方などできないのと同じことです。

 

呼吸によって取り込まれた酸素は、エネルギーに変換される過程の中で、電子を四つ受け取ります。そのことで、酸素は水となっておとなしく出ていきます。「電子」と聞いただけで化学アレルギーが出てくる人もいるかもしれませんが、「電子とはなにか」なんて理解する必要はありません。「電子」という言葉の代わりに、「ケーキ」といってもいいのです。呼吸によって取り込まれた酸素はエネルギーを作るために働かされて、どうしてもケーキを四つ食べないと暴れてやるぞ!と言っているわけです。

酸素すべてにうまく四つずつケーキを渡すことができればいいのですが、やはりそこは人間のすることですから、公平にとはいきません。ケーキを二個とか三個とかしかもらえない酸素も出てきます。こうなると酸素は「話が違うじゃないか」ということで暴れ始めます。この暴徒化した酸素のことを「フリーラジカル(活性酸素)」と呼びます。フリーラジカルは、ケーキがもらえなかったので、体内の細胞などからケーキを奪うのです。つまり細胞が破壊されてしまうので、老化につながります。これがフリーラジカル老化説です。分かりやすい考え方ですね。

ちなみに化学では、電子を奪う反応、すなわち上の例ではケーキを奪う行為のことを「酸化」と呼びます。逆にケーキを与える行為、つまり電子を渡す反応を「還元」と呼びます。例えば、銅は酸素に触れることによって、表面が褐色に変化します。つまり、酸素が銅から電子を奪い、酸化させたのです。一方、酸化してしまった銅は、高温で炭素と反応させると元の銅に還元されます。これを酸化還元反応といいます。ケーキを奪うのが酸化、与えるのが還元です。

それでは抗酸化とは何でしょうか。すでにお気づきの通り、呼吸によって取り込まれた酸素が暴れないようにすれば老化が抑制されます。つまり、酸素が他からケーキを奪う行為(酸化)をしないようにすればいいのです。そのためにはケーキを四つもらえなかった酸素におとなしくしてもらわなくてはなりません。皆さんならどうしますか?

そうです、満足していない酸素にケーキを与えればいいのですね。ですから、ケーキを他に与えることができる物質を体のなかに取り込めばいいのです。ケーキをたくさんもっている物質を「抗酸化剤」と呼びます。抗酸化剤は体内に取り込まれた後、暴れようとしている酸素にケーキを与えていくことで、なだめてくれるわけです。格好つけて言えば、「フリーラジカルを還元する」のです。

 

ここまでくれば、抗酸化サプリメントがなんのためにあるのか、もう皆さんお分かりのことでしょう。一般的に抗酸化物質として知られているのは、ビタミンCやビタミンE、レスベラトロール(ポリフェノール)などです。また最近では水素が注目されています。水素は「この世でもっとも小さい分子」ですが、水溶性のビタミンC、脂溶性のビタミンEなどと違って、水にも油にも溶けます。そのため、ビタミンCやビタミンEは作用する場所に限りがあるのに対して、水素は細胞内のあらゆる場所で作用することができるのです(※2)。

 

 

抗酸化物質としての水素はまだまだ研究が始まったばかりと言えますが、フリーラジカル老化説もその発表から定着にいたるまでは何十年もかかったわけです。ですから、水素の効果についても今後、いろいろと新しいことが分かってくるのかもしれませんね。

 

(※1) Harman, D (1956). “Aging: a theory based on free radical and radiation chemistry”. Journal of Gerontology. 11 (3): 298–300. doi:10.1093/geronj/11.3.298. PMID 13332224.

(※2) 中村成夫「活性酸素と抗酸化物質の化学」日医大医会誌2013;9(3)