さて前回は、アトピー性皮膚炎の原因が肌のバリア機能の低下にあることを見ました。今回はステロイド剤について考えてみたいと思います。

ステロイドというのは総称で、さまざまな種類のステロイドが存在します。例えば、オリンピックでロシア選手団がドーピング容疑で出場停止になった時には、アナボリックステロイドというものが有名になりました。これは男性ホルモン系のテストステロンで、筋肉増強剤として知られるものです。

一方で、アトピー性皮膚炎の治療などに使われるステロイドは、副腎皮質ホルモンと呼ばれるものです。いわゆる「ステロイド外用薬」ですが、あまり良いイメージを持たれていないかもしれません。長期の使用は依存性を生んだり、毒性を持ったりするからです。

ただし、むやみに「ステロイド恐怖症」を抱くことも間違いです。炎症を抑える薬としては非常に有効ですから、避けてばかりいると、有効な治療が遅れ機会を逸してしまうことになります。今回は治療薬としてのステロイドの歴史を振り返り、その正しい使用法について考えてみましょう。

ステロイド外用薬に含まれる副腎皮質ホルモン薬は、コルチゾールに分類され、ステロイドホルモン(糖質コルチコイド)というものです。これは、WHO(世界保健機関)の必須医薬品モデル・リスト(EML)にも含まれている、現代医学においては欠かすことのできない医薬品です。

 

最初に臨床応用されたのは、1949年にさかのぼります。アメリカのミネソタ大学内のメイヨークリニックのリウマチ研究部長であったフィリップ・ヘンチ医師と、生化学部長のエドワード・ケンドル医師が、コルチゾンという物質を関節リウマチの治療に使用しました。これは大変うまくいき、当時は奇跡と呼ばれるほどの効果を上げたと言われています。翌年の1950年、両氏はスイスのタデウシュ・ライヒシュタイン氏とともに、ノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

 

リウマチ治療のありかたを一瞬にして変えてしまったこのコルチゾンは、抗炎症剤としての副腎皮質ホルモンです。その後、眼科、消化器科、呼吸器科、皮膚科などにおいて革命とも呼ばれる変化をもたらしたと言われています。さらに、臓器移植や小児がん研究においても、一大躍進を下支えしました。コルチゾンをはじめとする副腎皮質ホルモンは、処方薬および市販薬として、現在に至るまで世界でも最も普及している医薬品としてトップ10に入ります。

一方で弊害も見られています。すでに述べたように、長期にわたるステロイド剤の使用は依存性を生み、毒性をもたらします。さらに、非常に効果的な抗炎症薬であるがゆえに、医師が病気の原因をしっかりと突き止めることなく、安易に処方してしまう場合もあります。

 

確かに、アトピー性皮膚炎において、まずは炎症を抑えることは重要です。ステロイドを恐れすぎても、無駄に症状を長引かせてしまうことになりかねません。そうした理由から、治療の開始の時期を逸することなくステロイド剤で炎症を抑えることは有効だと言われています。ただし、それはあくまでも症状を抑えているだけであり、メインとなる治療法ではありません。

アトピー性皮膚炎においては、前回のブログでも説明したように、一番の原因は皮膚のバリア機能の低下によって保湿性が失われていることです。ですから、常に保湿性を高め、皮膚のバリア性を正常に戻す努力が大切です。ステロイド剤で症状が改善されたからといって、外用薬を継続するだけでは解決にはなりませんし害にさえなります。あくまでもメインの治療方法は、皮膚のバリア機能の改善に置くべきなのです。