誰もが一度は聞いたことがあると思われる「糖質制限」という言葉。ここ数年であっという間に世間に定着しました。当コラムの読者の中にも、実践中という方は多いのではないでしょうか。「低糖質」「糖質ゼロ」をうたう食品・スイーツ・飲料がたくさん販売されているのをよく見かけます。飲食店でも定食に付くライスを「湯豆腐」に変えることができるほか、白米ではなくカリフラワーを使ったカレーライスを提供するなど、低糖質メニューの提案も進んでいますね。

なぜ糖質制限がそこまで流行しているのかというと、まずは「ダイエット」のイメージが先行しているからだと思われます。糖質を摂ると血糖値が上昇し、インスリンが大量に分泌されます。しかし大して体も動かさないまま糖質を体に供給し続けると、余った血糖が中性脂肪として貯蔵され、体脂肪の原因となるのです。糖質制限ダイエットは肉や魚は食べてもOKとされており、つらいだけの食事制限ダイエットとは無縁のもの。この続けやすさから老若男女から注目されているのでしょう。

しかし糖質制限はダイエットだけでなく、さまざまな疾患予防のために非常に有効な食事療法。糖質過多による食後高血糖により、以前に当コラムで扱った「糖化」が体内で進んでいきます。この糖化が進むと悪玉の「AGEs(終末糖化産物)」が蓄積され、動脈硬化や骨粗しょう症、脳卒中や糖尿病合併症、認知症などの発症や進行にも深く関わってくるのです。

また、最近話題になっている「血糖値スパイク」という言葉をご存じでしょうか。「スパイク」とはトゲという意味であり、空腹時と食後の血糖値の差をグラフにした際、大きくトゲのように鋭角となることから名付けられたと言います。「血糖値スパイク」は有害な活性酸素を生じさせ、血管の壁を傷つけて動脈硬化のきっかけをつくるなど、健康を害すリスクが高くなります。通常時の血糖値が正常であっても、糖質過多な食事を続けているとそのリスクが高くなっていくといい、糖質制限のパイオニアとして知られる江部康二医師(高雄病院理事長)の著書には「一説には、1400万人以上の日本人に血糖値スパイクが生じている可能性があるともいわれている」と記されています。

前回の「糖尿病と歯周病」でも触れましたが、肝臓や脂肪細胞、筋肉などでインスリンが正常に働かなくなることを「インスリン抵抗性」と言います。この「インスリン抵抗性」を改善するために、人間の体はさらにインスリンを分泌させ、「高インスリン血症」となってしまいます。

インスリンは「インスリン分解酵素」により分解されるのですが、実はアルツハイマー病の原因の一つと言われる「アミロイドβ」の分解も担っているそう。ですからインスリンが過剰にあると、兼任している「アミロイドβ分解」まで手が回らないため、蓄積されていってしまうという面もあります。

 

高血糖のリスクはお分かりいただけましたでしょうか。「摂取後、血糖に直接の影響を与えるものは糖質のみで、タンパク質と脂質血糖に直接影響は与えない」とされています。このため糖質を制限し、血糖値のコントロールを図るのが「糖質制限」なのです。

しかし、こうした健康ブームが来るたびに「この方法は安全だ」「いや、体に害がある」という議論がなされます。「糖質制限」も同じで、医師においても意見は割れ、ある週刊誌で「体にいい!」という記事が出たかと思えば、後日ライバル週刊誌には「実は体に悪い!」という特集が掲載されることもありますよね。さまざまな見方があって当然であり、どちらの意見が正しいかは、少なくとも医師や研究者ではない素人が判断できるものではありません。

ただ、糖質を制限するにしろ、しないにしろ、「極端」なのが良くないのであって、糖質制限は危険という見解を示す医師であっても「好きなだけ糖質を摂取して良い」とは言っていません。例えば「白米はご飯1杯までにしよう」「アルコールならビールではなくウィスキーを」「甘いお菓子は週1回までに」など、意識的に糖質を控えめにすることは決して悪いことではないのです。

日々の食生活を少しでも見直し、考えてみることが将来の健康につながります。これからの季節はクリスマスやお正月などイベントもたくさん! 無理なくできるプチ糖質制限で、めいっぱい楽しみつつ体も労りましょう。