誰もが罹患する可能性のある認知症。認知症と聞くと、代表的な症状は「物忘れ」だと考える方も多いかと思いますが、それだけではありません。認知症は加齢による記憶低下とは違い、「物忘れ」の自覚症状がなかったり、判断障害や遂行機能に関する障害が出てきたり、失くしたものを「盗られた」と思い込む被害妄想など、実にさまざまな症状が複合的に現れる人もいます。

 

これまで何度もお伝えしてきた通り、認知症の根治治療はまだ確立されていません。そのため、認知症を予防するのはもちろん、認知症の症状が現れた場合はなるべく進行させないようにすることが大切です。

 

予防をめざすなら、当然ながら認知症の発症リスクを下げなければなりません。まず認知症は高血圧や脂質異常症、糖尿病など生活習慣病と密接に関わることは周知の通りです。また特にリタイア後の高齢者に多い不活動や対人交流の減少などもリスクを高めます。これらは思い立った瞬間から改善に向けた対策を行うことができますし、もし疾患があったとしても、適切な治療を受けることでリスクを低下させることができます。

そして現在注目されているのが「有酸素運動」です。有酸素運動はウォーキングやジョギング、エアロビクスなど、長時間にわたり筋肉にほどよい力をかけ続ける運動で、この「ほどよい力」というのは、通常の歩行よりも強い動きです。だらだらと歩くのではなく、腕をしっかり振りながらキビキビと体を動かすことが重要です。

運動の習慣がある人は、運動習慣のない人と比較して認知症の発症リスクが低いことが、数々の研究で報告されています。海外の大規模研究では、認知症ではない高齢者4615名を対象にした5年間の追跡調査で、「歩行よりも強い有酸素運動」を週3回以上実施していた人は、それ以下の人たちよりも、MCIと呼ばれる軽度認知障害やアルツハイマー型認知症などの発症リスクがいずれも有意に低いことがわかりました。実証研究でも高齢者が週3回・1年間、有酸素運動を続けることで記憶の改善が見られたほか、特に記憶に関わる「海馬」と呼ばれる部分をはじめとした脳の大きさが維持できることも報告されているのです。

運動習慣は糖尿病や高血圧といった生活習慣病対策としても有効ですが、認知症に直接関わるメリットもあると言われています。それは、全身の筋肉を刺激し心拍数が増加することで、脳への血流が増えること。そして有酸素運動で脳由来神経栄養因子「BDNF」というタンパク質が脳の中で生成されていることがわかってきています。本来、加齢とともにその生成能力が低下するのですが、このBDNFが活性化すると、脳の神経細胞やそのネットワークが増加するのだとか。そして筋力を維持することは、寝たきりなどの介護予防にもつながります。ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動は、さまざまな角度から見て有効なものであることは間違いありません。

そしてこの有酸素運動にプラスして、運動と「頭を使う」という作業を追加した『コグニサイズ』が推奨されています。『コグニサイズ』は軽度認知障害の高齢者308人を対象にした効果検証実験では、有酸素運動と『コグニサイズ』、運動の習慣化を取り入れた複合的運動プログラムを行い、脳萎縮の程度、記憶や言語、身体活動量などに効果が認められています。

 

『コグニサイズ』は、例えば左右にステップを踏みながら数字を数え、「3の倍数」のときに拍手をします。右足を開きながら「1」、右足を戻しながら「2」、左足を開きながら「3」でパン!と手を打ちましょう。そして「4」で左足を戻すのです。文字にすると難しいのですね(笑)。

そこで、かつて一世を風靡した「世界のナベアツ」を思い出してください。「世界のナベアツ」の人気のネタは「3の倍数と3がつく数字のときだけアホになる」というものでした。「イチ・ニ・サァ~ン、シ・ゴ・ロォーク…」と3の倍数や「13」といった3のつく数字は、“アホな顔と声”になってしまうのです。これと同じで動きながら数字をカウントし、3の倍数のときだけ手を叩きます。「そんなの簡単じゃないか」と思い実際にやってみましたが、これが意外と難しいのです。自宅で簡単にできるので、ぜひやってみてください。

 

現在、テレワーク中で定期的なウォーキングをされている方の中には、ただ歩いていることをつまらなく感じている方も多いのではないでしょうか。そういう人は歩きながら数字を数えて「3の倍数」でステップを踏むなどアレンジしても面白いですね。こうした運動+頭の体操は気分転換にもピッタリですし、高齢者でなくとも今からコツコツと続けることで認知症予防にもつながっていきます。このように「頭を使いながら運動」は非常に効果的なので、もし家族でウォーキングをしているなら、しりとりをしながら歩くのもおすすめですよ。