(vitro /vivo)パーキンソン病モデルにおけるTREM2を介した神経保護作用(2024-Jun)
【研究の目的】
パーキンソン病(PD)は、脳の中にある「黒質」という場所のドーパミン神経細胞が壊れていく病気です。この神経細胞が減ることで、体がうまく動かなくなったり、ふるえが出たりします。
最近の研究では、この神経細胞の破壊に「ミクログリア」という脳内の免疫細胞による炎症が関わっていることが分かってきました。
そこで注目されているのが、ミクログリアが持っている「TREM2(トレムツー)」という受容体です。TREM2が働くと炎症が抑えられるため、パーキンソン病の新しい治療ターゲットとして期待されています。
そして、「ジヒドロケルセチン(タキシフォリン)」という天然の成分には、炎症を抑える作用や抗酸化作用があることが知られています。そこで、このタキシフォリンがどのように神経細胞を守るのか、そのしくみを詳しく調べたのがこの研究です。
【研究の方法】
<in vivo>
パーキンソン病に似た症状をつくるために、ラットの脳に「LPS(炎症を起こす物質)」や「6-OHDA(神経を壊す物質)」を入れて、ドーパミン神経がどれくらい壊れるかを観察しました。そこにタキシフォリンを投与して、神経を守れるかを調べました。
< in vitro>
ドーパミン神経細胞(MN9D)とミクログリア細胞(BV2)を使い、タキシフォリンがTREM2を通じてどのように神経を保護するのかを調べました。
<in vivo>
TREM2を持っていないマウス(ノックアウトマウス)で同じようにタキシフォリンを投与し、TREM2がないとタキシフォリンの効果がどうなるかを確認しました。
【結果】
タキシフォリンは、LPSや6-OHDAによって起きる神経のダメージをしっかり抑えることができました。
タキシフォリンは、ミクログリアの炎症反応を抑える作用もありました。
特に、タキシフォリンはTREM2の働きを活性化することで、神経保護の効果を発揮しているようです。
しかし、TREM2を働かなくした状態(サイレンシング)やTREM2を持たないマウスでは、タキシフォリンは効果を示しませんでした。
【結論および可能性】
この研究から、タキシフォリンはTREM2というスイッチをONにすることで、炎症を抑えて神経細胞を守るということが分かりました。
つまり、タキシフォリンの神経保護効果は、TREM2の働きに強く依存している、ということです。
このように、タキシフォリンはパーキンソン病のような神経変性疾患に対して、TREM2を介した新しい治療候補になる可能性があると考えられます。