(vivo/vitro/silico)タキシフォリンの胃潰瘍治癒に対する有用性を示唆する基礎研究(2021)
【研究の背景】
タキシフォリンは抗酸化・抗炎症作用をもち、過去の研究では胃粘膜保護効果が示唆されています。しかし、TAXは水溶性が低く不安定であるため、胃での滞留時間・吸収性の改善が課題となっていましたた。
【目的】
本研究では、TAXの胃内滞留性を高めるために開発された「胃粘着性マイクロ粒子(MPTax)」に着目し、① 胃潰瘍の治癒促進作用(in vivo)② Helicobacter pylori への抗菌作用(in vitro)③ 胃酸分泌の主要酵素 H⁺/K⁺-ATPase への可逆的阻害作用(in silico)を総合的に検証することを目的としました。
【方法】
ラットの酢酸誘発性慢性胃潰瘍モデルを用い、TAX単体(1–10 mg/kg)または胃粘着性マイクロ粒子に封入したTAX(MPTax、TAX換算10 mg/kg)を7日間経口投与した。潰瘍面積、組織学的指標(粘液量、炎症指標、酸化ストレスマーカー)を評価し、従来薬オメプラゾールを対照としました。
さらに、TAXのH⁺/K⁺-ATPase への結合性(ドッキング & 分子動力学シミュレーション)H. pylori に対する最小発育阻止濃度(MIC)も測定しました。
【結果】
<胃潰瘍治癒効果(in vivo)>
・MPTax(81.37 mg/kg = TAX 10 mg/kg 換算)は潰瘍面積を63%減少
※オメプラゾール 57%、TAX単体(10 mg/kg)40%
・TAX 1・3 mg/kg は有意な改善を示さず、治癒には一定以上の投与量が必要
・組織学的に、TAXおよびMPTaxはいずれも粘液(mucin)を増加(TAX +264%、MPTax +104%)、潰瘍部での炎症(MPO活性)を正常化、上皮・腺構造の再生を促進、が確認された。
<酸化ストレス・抗酸化能への影響>
・酢酸潰瘍モデルで減少するグルタチオン(GSH)をTAXおよびMPTaxは回復
・脂質過酸化(LOOH)はMPTaxで強く抑制
・TAX単体はSOD活性を正常化し抗酸化防御を改善
・粒子成分(キトサン)自体にも一部抗酸化効果がみられるが、潰瘍治癒促進はTAXの作用に依存
<Helicobacter pylori 抗菌作用(in vitro)>
TAXのMICは 625 μg/mL と判定
(菌株や培養条件により報告値のばらつきあり)
<プロトンポンプ(H⁺/K⁺-ATPase)阻害(in silico)>
・TAXは酵素の結合部位において可逆的に結合し、Tyr801 を中心とした複数の残基と安定的な相互作用を形成
・既存の不可逆的PPIとは異なる可逆的阻害様式が示唆
【結論および応用可能性】
本研究は、タキシフォリンが胃潰瘍の治癒を促進する明確なエビデンスを示し、その作用は 胃粘膜保護(粘液増加)、抗炎症作用、抗酸化作用 に加え、H⁺/K⁺-ATPase の可逆的阻害、H. pylori の増殖抑制 といった複数の機序が関与している可能性を示しました。
特に、胃内での滞留性を高めたMPTaxは、TAX単体よりも高い治癒効果を示し、タキシフォリンの胃内送達システムとして有望であると結論付けられます。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0009279721000818

