(vitro /vivo)慢性閉塞性肺疾患の病因におけるタバコの煙誘発性フェロプトーシスに対する抑制効果(2022.Feb)
【研究の背景と目的】
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、喫煙などを原因として進行する肺の炎症性疾患で、呼吸困難や肺機能の低下を特徴とします。
最近の研究では、フェロトーシス(鉄依存性の酸化的細胞死*がCOPDの病態進行に関与していることが明らかになりつつあります。
この研究では、抗酸化・抗炎症作用を持つタキシフォリンが、タバコ煙によって引き起こされるCOPDにおいて、フェロトーシスを抑制する作用があるかどうか、またその作用がNrf2経路(抗酸化シグナル経路)を介しているかを動物実験(in vivo)と細胞実験(in vitro)の両方で検証することを目的としています。
【結果】
タバコ煙抽出物(CSE)を用いて細胞レベルおよび動物モデルでCOPD様病態を誘導し、一部のモデルに対してタキシフォリンを投与し、主に以下の項目を評価しました。
- 細胞生存率
- 酸化ストレス指標(MDA、SOD、ROS)
- フェロトーシス関連タンパク質(SLC7A11、GPx4、Nrf2)の発現(mRNA・タンパク)
- 脂質過酸化(C11-BODIPY染色)
- ミトコンドリアの形態変化(電子顕微鏡で観察)
結果として、タバコ煙により、肺細胞ではフェロトーシスの活性化(GPX4低下、鉄増加、酸化ストレス増加)が見られましたが、タキシフォリンを投与することで次のことがわかりました。
- SLC7A11およびGPx4(フェロトーシス抑制因子)の発現を有意に上昇さた。
- CSEによる酸化ストレス(MDA・ROS増加、SOD減少)を有意に改善した。
- 脂質過酸化の増加やミトコンドリアの構造異常が抑制された。
- Nrf2タンパクの発現を濃度依存的に上昇させた。
一方、Nrf2阻害剤(ML385)を使用すると、タキシフォリンによる保護効果(SLC7A11、GPx4の増加や脂質過酸化の抑制)が失われることが確認されました。
【結論および可能性】
タバコ煙が誘導するCOPDの進行にはフェロトーシスが深く関与していることが示されました。
タキシフォリンはNrf2経路を活性化することでフェロトーシスを抑制し、肺組織を保護する作用があると結論づけられました。
このことから、ジヒドロケルセチンはCOPDの予防や治療に有望な天然物質であると期待されます。
<用語解説>
フェロトーシス:鉄と脂質過酸化により引き起こされる新しい細胞死の形態
Nrf2:細胞内の酸化ストレスに対抗する抗酸化酵素の発現を調節する転写因子
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0944711321004347