(vitro)タキシフォリンは受精率向上の可能性がある(2025-dec)

【研究の背景】
家畜繁殖におけるウシ精子の凍結保存は人工授精の普及に欠かせない技術であるものの、凍結融解の過程では精子が酸化ストレスや膜損傷を受け、運動性や生存率が低下しやすいという課題があります。
これらのダメージを軽減するため、凍結延長剤に抗酸化物質や膜保護因子を添加する研究が進められてきました。トレハロースは浸透圧調整と膜保護作用を、フェチュインは膜安定化作用を、そしてタキシフォリンは強い抗酸化作用を持つことが知られており、これらを組み合わせることで精子保護効果が高まる可能性があります。しかし、特にタキシフォリンを含む複合添加の有効性は十分に検証されていません。

【研究の目的】
本研究は、凍結延長剤にトレハロース、フェチュイン、タキシフォリンを同時に添加することで、凍結融解後のウシ精子の運動性、生存率、膜の完全性、ミトコンドリア活性、酸化ストレス指標などがどの程度改善されるかを明らかにすることを目的としました。

【研究の方法】
健常なウシから採取した精液を対象とし、凍結延長剤に添加する成分を変えた複数の条件で凍結融解試験を行ないましたた。
比較した条件は、添加物を含まない対照群、トレハロース単独添加群、トレハロースとフェチュインの併用群、トレハロースとタキシフォリンの併用群、そしてトレハロース・フェチュイン・タキシフォリンを同時に添加した群の5種類。凍結融解後には、精子の運動性、生存率、膜の完全性、ミトコンドリア膜電位、酸化ストレス指標などを測定し、各群の違いを比較評価しました。

【結果】

  • トレハロース+フェチュイン+タキシフォリンの同時添加群が最も顕著な改善効果を示した。
  • 凍結融解後の総運動率・前進運動率が有意に高い
  • 精子の生存率が向上した
  • プラズマ膜および先体膜の損傷が減少し、膜の完全性が維持された
  • ミトコンドリア膜電位が高く、エネルギー産生能が保たれていた
  • 酸化ストレス指標(ROSレベル)が低く、酸化損傷が軽減された

【結論】
本研究により、トレハロース、フェチュイン、タキシフォリンを凍結延長剤に同時添加することで、凍結融解後の精子に生じる酸化ストレスや膜損傷を効果的に抑え、運動性、生存率、膜機能、ミトコンドリア活性といった重要な品質指標が総合的に改善されることが示されました。
これらの結果から、タキシフォリンはウシ精子の凍結保存における新たな抗酸化補助因子として有望であり、繁殖技術の改善に寄与する可能性が高いと考えられます。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0011224025001361?via%3Dihub