今回は水素と免疫機能についてのお話です。そのためには、まず活性酸素のおさらいから始めましょう。

 

生物にとって、酸素は必要不可欠なもの。もちろん人間も酸素がなければ生きていけません。ところが呼吸によって取り込まれた酸素の数%は、通常よりも活性化された「活性酸素」へと変化します。

活性酸素と聞くと、私たちの体を老化させ、さまざまな疾病を引き起こす悪者と認識されています。しかし、それは間違い。活性酸素には「スーパーオキシドアニオンラジカル(スーパーオキシ)」「過酸化水素」「一重項酸素」「ヒドロキシラジカル」の4種類があり、スーパーオキシ・過酸化水素・一重項酸素が「善玉」、ヒドロキシラジカルが「悪玉」とされていて、すべての活性酸素が体に悪影響を及ぼすわけではありません。

厚生労働省のe-ヘルスネット「活性酸素と酸化ストレス」によると、この善玉活性酸素は免疫機能や感染防御の役割を担う大切なもので、細胞間をつなぐシグナルの伝達、排卵・受精、細胞の分化などの生理活性物質としても活用されているのだとか。要するに活性酸素の中にも“体に必要なもの”があり、活性酸素を除去すれば万事解決、というわけではないのです。

活性酸素の中の「悪玉」の産生が、体に備わった抗酸化防御機構を上回ってしまうと、さまざまな問題が生じてきます。細胞を傷つけ、心筋梗塞、糖尿病、がん、肺炎、アルツハイマー型認知症などあらゆる病気を引き起こしてしまうのです。

 

ここまでは以前、当コラムでも取り上げてきましたね。そしてこの悪玉活性酸素・ヒドロキシラジカルは、生命に必要なエネルギーを作り出すミトコンドリアを攻撃し、ダメージを与えます。その結果、ミトコンドリアは正常に働けなくなってしまい、免疫細胞の機能も低下してしまうのです。

 

活性酸素を除去することは必要なのですが、最近の「抗酸化」と呼ばれるさまざまな対応の中には、善玉と悪玉の区別をつけず、すべての活性酸素を排除してしまうものもあるのだとか。善玉活性酸素が持つ免疫機能や感染防御の力も失われてしまうということですね。

前置きが長くなりましたが、ここからが本題の「水素で免疫力アップは本当なの?」に関してです。

水素ガスが悪玉活性酸素を除去する働きがあるのはすでに広く知られた事実で、国内外でさまざまな研究報告がなされていますが、さらに一歩進み、以前にご紹介した『水素ガスでガンは消える!?』(赤木純児著/辰巳出版)を参考に、説明していきます。

同著は腫瘍免疫を専門とする医師が、実際の末期がん治療の現場で用いた水素ガス免疫療法についてまとめたものです。その中には、「水素ガスは悪玉活性酸素だけを除去し、善玉には影響しない」「水素ガスがミトコンドリアを活性化」とあります。この本にまとめられた水素ガス免疫療法は、2019年の時点ですでに400以上の症例があり、エビデンスの構築が進められているそうです。

例えば、体の中にがん細胞があると、それを攻撃するための細胞(T細胞)が活性化し、免疫力が高まります。しかしこの免疫力が高まりすぎると力が強すぎて自らの体を傷つけてしまうため、T細胞は「PD-1」と呼ばれる抑制分子を出します。こうなると免疫力が抑えられているので、今度はがん細胞と戦うことができなくなってしまうのです。

 

そこで現在、がん治療薬として期待されるのが、免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」。このオプジーボがPD-1とくっついて、免疫抑制を解除するのです。これは2018年にノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑氏の研究成果をもとに開発された治療薬で「夢の薬」とも言われているもの。

一方の水素ガスは、T細胞のミトコンドリアを活性化し、そもそもPD-1を出させないようにする働きがあることが分かっています。また、がん細胞と戦い続けて疲れ果ててしまったT細胞のミトコンドリアを再活性化させ、再度がんに挑める細胞に蘇らせてくれるという役目も。赤木医師はオプジーボと水素ガスを併用した水素ガス免疫療法で、末期がん治療の大きな成果を上げているのです。

 

さらに、疲れ果ててしまったT細胞はミトコンドリア自体が機能不全に陥っているため、オプジーボでPD-1を解除しても、がん細胞と戦うことが不可能。ですが、水素ガスは「免疫抑制を解除する」というオプジーボ同様の働きを持ちつつ、さらにオプジーボが効かない進行がん・末期がんの患者の免疫も活性化させる特徴があるのです。

 

詳しい内容は『水素ガスでガンは消える!?』をご覧いただきたいのですが、この水素ガス免疫療法は、民間療法ではなく科学的アプローチに基づいた現役の腫瘍免疫専門医の書下ろしです。そしていわゆる「標準治療」を否定しているわけではなく、主に水素ガス吸入を併用するというもの。実際のCT画像などを用いて症例や治療内容を解説し、水素ガスがどのように人間の免疫に作用しているのかを説明しています。

 

今回の例は進行がん・末期がんの治療現場で用いられている水素ガス吸入についてですが、「悪玉活性酸素のみ除去する」「ミトコンドリアの活性化」という水素の特性は、病気でない人の免疫力向上にもいい影響を与えてくれることでしょう。

 

同著は水素ガスへの期待が高まるのはもちろん、日々の健康維持に役立つ話題もたくさん載っています。気になる方はぜひ読んでみてくださいね。