「ビタミン」は聞き慣れた言葉ですが、「ビタミンC」や「ビタミンB」と違って、「ビタミンP」はあまり聞く機会のない言葉だと思います。といいますのも、現在では独立したビタミンとは考えられておらず、ルチンとヘスペリジンの混合物であることが分かっているからです。

独立したビタミンと考えられていないのは、その欠乏症がないからだとされています。そのため、フラボノイド(有機化合物)の一種であるとか、ビタミン様物質であるとかされています。

しかし独立したビタミンと考えられていないことは、何も効果がない、ということを意味しているわけではありません。ですので、ルチンとヘスペリジンの混合物をしばらく「ビタミンP」と呼んで、その有用性を考えてみたいと思います。

まずビタミンPはいつ発見されたか、ということですが、これは1936年、ハンガリーの生物化学者であるアルベルト・サン=ジョルジによって、レモンの皮から抽出されたのが始まりとされています。

サン=ジョルジ博士は、1937年にはノーベル生理学・医学賞、1954年にはアルバート・ラスカー基礎医学研究賞を受賞している世界的な学者なのですが、その個人的な経歴も興味深い人物です。なぜなら、第二次世界大戦中、ファシズムに反対する立場から、同胞のユダヤ人を助けるなど積極的に活動したからです。1943年にはハンガリーの首相の特命を受けて、表向きは講義をするという名目でイスタンブールに飛び、そこで連合国側の連絡員と秘密交渉に当たったりもしています。そのため、1944年の夏にはヒトラー個人の命令によって、自宅軟禁におかれ、その後戦争が終わるまで逃亡生活を送りました。

さて、そのようなアルベルトが発見したビタミンPは、毛細血管壁の状態を正常化し、その透過性亢進を抑制する、という働きがあります。「P」は、透過性を意味する「Permeability」から来ています。また血圧を下げたり、心拍リズムを整えたりという働きもあります。

ビタミンPは体内で作り出すことはできませんから、経口摂取によるのが普通です。どのような食物に豊富に含まれているのでしょうか? まず、レモンの皮から抽出されたのがきっかけなのですから、オレンジやミカンなどの柑橘類はすべてビタミンPを含んでいますし、チェリーやブドウ、リンゴ、アプリコットなどもよく知られています。野菜類では、トマトやカブ、レタス、ニンニクなどに入っていますし、緑茶やソバの実は特にルチンの含有量が多いことで知られています。またビタミンPの王者と言われているのは、ブラックチョークベリーです。

ただしビタミンPは熱や日光、酸素などに対して弱いという点には気をつけなくてはなりません。

 

ビタミンPは医療の現場でも使われています。その際、多くの場合、ビタミンCと一緒に摂ることが推奨されています。お互いに相性がよく、効果を高めあうからです。自然においても、ビタミンCとビタミンPは同じ食物に同時に含まれていることが多いのも偶然ではないのですね。