「タキシフォリン」という呼び方は日本や欧米などで多く使われていますが、原産のロシアでは「ジヒドロケルセチン」という呼び方も広く使われています。ローマ字で書くと Taxifolin(タキシフォリン)と Dihydroquercetin(ジヒドロケルセチン)となります。一目でわかるように、 Dihydroquercetin と書くと長いですね。ですから略称として「DHQ」とも表記されます。英語読みすると「ディーエイチキュー」となり、ロシア語では «ДГК(デーゲーカー)» と呼ばれます。
一つの物質に対してもいろんな呼び方があるなということなのですが、国際純正・応用化学連合(International Union of Pure and Applied Chemistry、IUPAC)という国際団体の命名法によれば、タキシフォリンは「(2R,3R)-2-(3,4-Dihydroxyphenyl)-3,5,7-trihydroxy-2,3-dihydrochromen-4-one」というようになり、本当に「寿限無寿限無…」みたいなことになってしまいます。
要するに、化学名というのは普段考えているほど正確に物質を言い表してはいないということです。なぜなら常に「寿限無寿限無…」と唱えるわけにはいかないわけですから、「タキシフォリン」や「ジヒドロケルセチン」などと通称で呼んでいます。しかしこうなると、人の考え方次第で、やれ「タキシフォリオールと呼ぶべきだ」とか、「いやいやディスティリンだ」とか「トランスジヒドロケルセチンと呼んだほうがいい」などと、さらにたくさんの呼び方が出てくることになります。
結局百聞は一見にしかず、ということで下の図を見てください。
(Source: ГОСТ 33504-2015)
これです。つまりなんと呼ばれようが、タキシフォリンというのはこの図で示されているものといえば間違いありません。これを化学式といって、「C15H12O7」と表記すれば呼称がなんであれ間違うことがありません。中学生の時に化学式が大嫌いだったという人も、こういわれれば化学式のご利益が分かるわけです。そうでないといつも結局は「寿限無寿限無…」と呼ばないといけないわけです。
ところで、「ケルセチン」というのは最近食品の機能性研究などでたまねぎに豊富に含まれているなどといってすこし有名になっていますが、このケルセチンは次のような構造をしています。
(Source: Wikipedia)
「おや?」と思いますね。すでに上に示した図と全く変わらないじゃないか、ということです。OHの場所も、HOの場所も、Oの場所も同じです!
ジヒドロケルセチンの構造式を違う方法で書いてみるとこうなります。
(Source: Wikipedia)
はい、そうです、線の種類ですね。こちらは二重線が一本少なくなっています(単結合と二重結合といいます)。このように微妙な違いでも、構造式という図で示すと素人でも何となく違いが分かった気になるのでありがたいわけです。
ちなみに化学式でいえば、ケルセチンは「С15H10O7」となります。タキシフォリンとは微妙に違っていますね。それでも、薬理生物学的に見て、抗酸化性などの活性はタキシフォリンのほうが数倍活発だとされています。