コロナウイルスとウォッカ、コロナウイルスとうがい薬、など、まるでとってつけたような話題が時折ニュースの寵児となるわけですが、今回はスイスのバーゼル大学から、コロナウイルスとタキシフォリン、という、私たちにとってさえ思ってもみなかったような「とってつけたような話題」が飛び込んできました。スイスのバーゼル大学といえば、ベルヌーイの定理で知られる数学者であり物理学者でもあるダニエル・ベルヌーイ、そしてオイラー数やオイラーの公式など、いわずと知れた世紀の大数学者レオンハルト・オイラーなどが教鞭をとったことでも知られる、ヨーロッパでも最古の大学の一つです。そして「医学の祖」と崇められるパラケルススは、その生涯のほとんどを放浪の身で過ごしましたが、唯一例外的に医学の教鞭をとったのも、このバーゼル大学です1)。そのような権威ある大学から、「コロナウイルスとタキシフォリン」という話題が届いたのですから、これはもう、とってつけたものときって捨てるわけにはいきません。ですから少しその内容を紹介しましょう。

まず、前提として、急性呼吸器感染症に関わるウイルスは、インフルエンザやコロナをはじめ、その多くが肺に存在するプロテアーゼを利用して増殖することが知られています。ですから、その対策を考える場合、この増殖を阻害するものを探索しよう、ということになるわけですね。しかし、世の中にはありとあらゆる物質が存在しているので、そのなかから、コロナウイルスの増殖を阻害する物質を探そうとしたって、実際にひとつひとつ試していては、よほどの僥倖に恵まれない限り、時間が足りません。そこで、バーゼル大学のアンドレ・フィッシャーらの研究グループは、バーチャルスクリーニングという方法によって、理論的にその物質、つまり、コロナウイルスの増殖を阻害する可能性のある物質を探し出したのです2)

このスクリーニングの対象になったのは、なんと6億8700万の化合物で、しかもそこから、11個にまで可能性を絞ったというのですから驚きです。実際に論文に掲載されている図版を示しておきましょう3)

まさにバーチャルなスクリーニングでないと不可能なやり方ですね。そして、その結果、判明した11個の化合物、つまり、阻害剤として有望な化合物が以下です4)

そうなのです、なんとここに「タキシフォリン(Taxifolin)」の名前があるのです。

さらに、論文のなかでは、タキシフォリンについて、

・シベリアカラマツ(Larix siberica)由来のエキスとして抽出されている。

・食品として薬局などで一般に販売されており入手が容易である。

・11個の化合物のなかでも、最も強い阻害性を示している。

ということから、「潜在的な治療薬に対する最も直接的かつ迅速なアクセスがすでに存在している」

と結論付けています。

 

コロナウイルスに関しては、各国でそのワクチンの開発も進んでおり、研究はまさに日進月歩です。ただ、そこで問題になるのが、実際に市場でどこまで人々が簡単にアクセスできるか、ということです。「ウォッカ」や「うがい薬」が、とってつけたような話題になるのも、まさに、普段身の回りに存在するものだからでしょう。今回のバーゼル大学の論文から判断するに、タキシフォリンはヨーロッパでは、「うがい薬」のように、普段から身近にある存在なのかもしれませんね。

1)https://www.unibas.ch/de.html

2)

https://chemrxiv.org/articles/Inhibitors_for_Novel_Coronavirus_Protease_Identified_by_Virtual_Screening_of_687_Million_Compounds/11923239/1

3)Ibid.

4)Ibid.

5)Ibid.  «Известно, что лиственница сибирская (Larix sibirica) вырабатывает (-) – таксифолин, являющийся природным ресурсом для его экстракции. Кроме того, пищевые препараты, содержащие (-) – таксифолин, легко доступны в аптеках и других компаниях, обеспечивая прямой и быстрый доступ к потенциальному противовирусному препарату. Примечательно, что (-) – таксифолин переносит семь водородных связей, что является самым высоким показателем в нашем выборе соединений.»