かつては「不健康の代名詞」のように思われていた油。摂りすぎは肥満や生活習慣病の原因になり得るため、ダイエットや食生活の改善を図る際、まず始めにやることが「油を控える」でした。しかし現在は、適量の「良質な油」が糖尿病など疾病予防につながる、美容にも効果的だと広く知られるようになり、「積極的に摂取したいものの一つ」として認知されています。

 

MCTオイルは、健康オイルの中でも特に注目を集めているオイル。MCTの主成分である中鎖脂肪酸が100%のオイルをMCT(Medium Chain Triglyceride)といい、ココナッツやパームフルーツなどヤシ科の種子に含まれます。この中鎖脂肪酸に対して、キャノーラ油など一般的な油は長鎖脂肪酸で、文字通り脂肪酸の「長さ」が違います。長鎖脂肪酸の約半分の長さの中鎖脂肪酸は、短いという特性を生かし水になじみやすく、直接肝臓へ運ばれるため効率よく分解されるのです。

 

約4倍の早さで中鎖脂肪酸はすばやくエネルギー分解され、一方の長鎖脂肪酸は「必要に応じて」エネルギー分解されます。効率的にブドウ糖の代替エネルギーとなり、エネルギー切れを防ぎ、体脂肪を燃やすサポートをする特性を生かし、特に持久力が必要なマラソンなどのスポーツ時にMCTオイルの摂取がおすすめされています。

さらにこのブドウ糖は、脳の唯一の栄養源とも言われます。しかし、高齢になったり病気になったりすることで、ブドウ糖が活用できず、脳の働きに支障が出てしまうことも。例えばアルツハイマー型認知症の人の脳は、健康な人に比べて、ブドウ糖を取り込まず、脳細胞が正常に機能していなかったという研究報告もあります。

 

しかしブドウ糖だけエネルギー源だと思われていた脳は、ブドウ糖が不足すると、肝臓で作られる「ケトン体」を利用することが、近年の研究でわかってきました。1日3食以上食べられる飽食時代が始まったのはごく最近ですから、私たちの体には脂肪を「貯蓄」する能力があり、十分に栄養が摂取できないときは蓄えておいた脂肪で「ケトン体」を作り出し、必要に応じて肝臓から供給しているのです。

 

そしてMCTは、ブドウ糖が体内で不足していないときでも「ケトン体」を作り出しています。アルツハイマー病患者および軽度認知症の人にMCTを摂取してもらったアメリカの研究では、血中のケトン体が増えて記憶力低下が抑制されることが明らかに。現在もMCTと脳機能の関係について、たくさんの研究が進められています。

 

生活習慣病予防やダイエット、スポーツ、認知機能など、さまざまな場面での活用が広がっているMCTオイル。ただし糖尿病患者はケトン体の上昇で合併症を引き起こす可能性があることから、摂取には注意が必要です。また認知症になりたくないからといって、予防と称しMCTオイルを大量摂取することも絶対にいけません。推奨摂取量をしっかり守りながら日々の生活に取り入れて、より健康な毎日を送りましょう。