1950年代あたりから、マグネシウム不足が「文明病」の一つであることが指摘され始めましたが、1995年にはWHO(世界保健機関)によってマグネシウム不足が問題であることが公式に認められました〔1〕。なぜ、それが文明病と呼ばれるのでしょうか。

まず最初に、本当にマグネシウムが不足しているのかを見ておきましょう。現代人の25~30%は、マグネシウムの摂取量が不足していると言われています。さらに、2007年のデータによれば、20世紀初頭に比べて、マグネシウムの摂取量が半分以下になったとされています。具体的には、1日当たり500㎎摂取していたものが、175~225㎎に減少しているのです。

次に、マグネシウムがどのような役割を果たしているのかを理解しておきましょう。マグネシウムは、300以上の酵素の生成に重要な役割を果たしており、タンパク質の形成にも不可欠な物質です。また神経系においては、ストレスを抑制する役割も果たしており、外的環境から受ける刺激を和らげる作用があります

マグネシウムが不足すると、虚血性心疾患のリスクを高めることが知られているほか、高血圧、糖尿病などの生活習慣病との関連も指摘されています。さらに、落ち着かなくなったり、イライラしたりというストレス状態や、不眠や疲労感といったことにつながります。

特に妊娠期や授乳期、成長期や熟年期といった時期は、体がマグネシウムを通常以上に必要とすることが知られているほか、激しい肉体労働やスポーツ運動、40分以上の入浴、精神的不安・緊張、睡眠不足、飛行機での移動に伴う時差ボケなどにおいてはマグネシウムが多く消費されてしまいます。また利尿作用のある薬を服用している場合には、尿からマグネシウムが排出されてしまうため、注意が必要です。

マグネシウムを摂りすぎた場合、通常であれば尿から過剰分が排出されますが、腎機能が低下している場合には、高マグネシウム血症が生じやすくなる〔2〕とされています。

ここで、最初の問いに戻りましょう。なぜマグネシウム不足が文明病と呼ばれるのでしょうか。それは、工業製品化した加工食品や、化学肥料を使った農業によって栽培された野菜や果物には、従来ほどのマグネシウムが含まれていないからです。化学肥料の使用によって、土壌自体に含まれるマグネシウム量が減っていると指摘されています。参考データを挙げると、野菜に含まれているマグネシウム量は従来よりも24%減少しているほか、果物においては17%、肉においては26%減少しています〔3〕。

本来、食料から摂取すべきマグネシウムですが、文明病ともいわれるマグネシウム不足の背景にあるのは、食料を育む土壌そのもののマグネシウム不足なのですね。

 

〔1〕Gromova O.A. Magniy i piridoksin. Osnovyi znaniy. Obuchayushie programmyi UNESCO, Moscow, 2006B

〔2〕公益財団法人長寿科学振興財団

https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/mineral-mg.html

〔3〕Thomas, D. The Mineral Depletion of Foods Available to us as a Nation (1940-2002). Nutrition and Health. 2007;19:21–55