今回はミネラルについてお話しましょう。そのためには、ミネラルとは何かを明らかにしなくてはなりません。しかし、これがなかなか厄介な問題なのです。他のサイトではよく、「ミネラルとは無機物のことである」などと書かれていますが、そんなことを言われてもよく分かりません。そもそも「無機」という言葉自体が意味不明です。まずは、この意味を考えるところから始めて見ることにします。

化学の世界では、無機の反対は有機です。どうやら、「機」があるのか、ないのか、という違いのようです。

「無機VS有機」の基本には、シュタールというドイツ(当時はプロシアと呼ばれていました)の化学者が唱えた世界観があります。少し話がそれますが、このシュタールなる人物は、「物はなぜ燃えるのか」という疑問に答えたことで有名です。私の中学の化学教師は、割りばしのことを「フロギストン発生棒」と呼んでいました。割りばしをバーナーの火に近づけると当然ながら燃えるわけですが、300年以上前の最新学説では、「これは割りばしのなかにフロギストンという可燃性物質が詰まっていて、それに火がついて燃えるのである」と考えたわけです。そのフロギストン説で有名なのがシュタールです(もちろんこのフロギストン説は現在では否定されています)。

さて、話をもとに戻しましょう。このシュタールは次のように考えました。「生物は死ぬとすぐに腐敗する。一方、石は腐敗もせず安定している。これはつまり、生命力があるかないかの違いだ!」ここでピンときた人もいるかもしれませんが、もう少しこの話を続けます。

シュタールは、生物が生きている間に身体が腐敗しないのは、生命力に何か特別な力があるからだと考えたわけです。死んで生命力がなくなれば身体はすぐに腐敗を始めますからね。そこで、「生命力を有するもの」を有機物、「生命力を有しないもの」を無機物というように区分したのです。つまり「機」とは生命力のことを指します。いまでは化学分野が発展して、人工的に有機物をつくることができるようになったので、この区分は厳密には当てはまらないのですが、歴史的にはこのような経緯があって、有機と無機という考えが生まれたわけです。

例えばハチミツは、蜂という生物が作り出すものですから有機物であり、ダイヤモンドは生命を持たない鉱物ですから無機物になるわけです。で、この無機物がミネラルと呼ばれているわけです。

さてこのミネラルは、人間にとっては重要な栄養素でもあります。日本医師会によれば、「(ミネラルとは)身体の臓器や組織のいろいろな反応を円滑に働かせるために必要なものです。こうしたミネラルは身体のなかで作り出すことができないため、肉や魚、野菜、海藻などの食物からとりいれます」(※1)と説明されています。例えば、カルシウムが歯や骨をつくるもとになったり、カリウムが血圧の調節や心筋収縮の調整を行ったり、鉄が赤血球のヘモグロビンの主成分となったり、と様々な役割を果たしているのです。

ミネラルは主要ミネラルと微量元素に分けられます。主要ミネラルはナトリウムやマグネシウム、カリウムやカルシウムなど、1日当りおおむね100㎎以上の摂取が必要なもの、一方の微量元素は1日当たり100㎎未満でよい鉄やセレン、亜鉛などです。それぞれの詳しい役割については後日、また個別に取り上げることにします。

栄養素としてのミネラル全体として重要なことは、ミネラルはビタミンと相互に作用するという点です。例えば、体内でビタミンCが吸収されるためにはカルシウムが必要ですし、ビタミンB群にとってはマグネシウム、ビタミンEにとってはセレンが必要です。

またミネラルは総体として、血液や体液が酸性になりすぎたり、アルカリ性になりすぎたりしないよう、調整する役割を果たしています。ですから、ミネラルはあくまでも全体としてバランスよく摂取しなくてはいけません。

最後に、これが一番重要かもしれませんが、ミネラルは電解質といって、電気信号を運ぶ役割を果たしています。テレビ番組などで、人間の頭にいろんなクリップをつけて試験を行っているシーンをご覧になったことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、それは人間の神経細胞は電気信号によって情報を伝達しているからです。この電気信号を運ぶのがミネラルなのです。

ミネラルは汗とともに体外に排出されてしまいます。ですからスポーツの時に水分を摂取するだけでなく、ミネラル(電解質)も摂取しなくてはならないと言われるのです。このミネラルが不足すると、神経細胞を通した筋肉とのやり取りがうまくいかず(電気信号を運んでくれるミネラルが足りないわけですから)、足がつったりするわけです。

人間の身体は、巨大な電気バッテリーにたとえられます。そしてその電気が流れる回線の長さは、脳内だけでも10万キロメートルに及ぶといわれています。(※2)地球の円周が約4万キロメートルですから、なんと脳内の神経細胞だけで地球2周半になるのです!このとてつもなく長い神経細胞のなかでせっせと情報を伝達しているのがミネラル。その重要性は推して知るべきですね。

 

(※1) 日本医師会ホームページ

https://www.med.or.jp/forest/health/eat/06.html

(※2) 東京大学、理化学研究所、科学技術振興機構 2013年7月19日付プレスリリース「脳内の神経信号の伝播速度は時々刻々と変動していることを明らかに」